ヴォーカルの耳づくりと歌唱の学び方

ブレスヴォイストレーニング研究所のトレーナーや受講生によるライブラリー

V054「アモーレ・スクーザミ」 ジミー・フォンタナ/トニー・ダララ

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

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1.いきなり高い主音への解決で始まる、恋の歌です。トニー・ダララは、何気なく曲が始まっていますが、参考曲では、大々的に曲が始まって、いかにもサビですという趣を、前面に出しています。

ジミー・フォンタナは、ややガツンと始まりますが、すぐにトニー・ダララよりもさらに優しく、甘い声で歌い始めます。

低い第5音まで使って、サビ以外の部分は切なく歌われていきますが、途中からは3連符もまじえて、さらに切ない心が伝えられます。そして後半は半音高い調へ転調して、さらに盛り上がる形になっています。

歌詞の内容は、つい女性の心情かと思ってしまいますが、強いイタリア人女性に対するイタリア人男性なら、ありがちな歌詞かとも思えます。

 

2.トニー・ダララは、息混じりの声も使うためか、少し艶の少な目の声ですが、うまく曲を歌いあげています。ただ、後半の転調した部分の音程が、上がりきっていないのは、少し残念です。

ジミー・フォンタナは、息混じりがメインのソフトな中高音で、曲全体を歌っていきます。あくまでもナチュラルな声が好みのようで、せっかく低音域が強そうなのに、口の奥を開けて、声の低さや太さを強調することもなく、しぜんな発音の低音で歌っていて、中間部でほんの少しだけ、張りのある低音域をのぞかせています。低音域の強い美川憲一やピーターのように、もう少し低音域を強調すれば、さらに人気は高くなったのではないかと思ってしまいます。

 

3.低い第5音から高い高い第3音までと広い音域のうえに、後半は転調してさらに半音高くなるので、かなり広い音域が要求される曲です。うまくキーを考えて、取り組みましょう。低音域が強い方は、ジミー・フォンタナのキーで、しっかり低音域を強調する歌い方も、試してみましょう。(♭Ξ)

 

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1.ゆったりめのテンポなのでイタリア語の歌詞も歌いやすく、音の進行もシンプルなのでカンツォーネが初めての人でも入りやすい曲だと思います。この曲は出だしからこの曲の主題となるフレーズで始まり、さらに曲名であるamore scusamiと歌います。曲始めの印象がとても重要になるので、躊躇することなく明瞭な声を乗せてしっかりと歌い出してください。

 

2.フォンタナは、美声なのはもちろん息のコントロールにゆとりがあるのでとても聞き心地のよい歌唱です。また表現も豊かなので聞いているとよい意味で余白が感じられます。それが聞き手の想像を膨らませるのだと思います。

ダララは、フォンタナよりハリのある若い声という印象を受けました。歌い方に関してはscusamiなどのフレーズ末尾でポルタメント気味に歌うのが特徴的で、意図的に行った表現のひとつだと思いますが個人的にはあまり好みません。また曲終わりのche amo teでは、cheやteを強調し過ぎている感があり、発音が跳ねているのがやや子供っぽい感じに聞こえてしまいました。

 

3.4/4拍子で小節内に8分音符が多いですが、楽譜を見ながらフォンタナの歌唱を聞くと8分音符の長さが均等ではないことに気づくと思います。歌詞のアクセントのままに発音すると、自ずと音符の伸び縮みが生じるものです(1小節内が4拍なのは変わりません)。それが結果的にまるでしゃべっているかのように歌詞が聞こえてくるのです。楽譜で曲の大枠を確認しつつも、フォンタナの歌詞の発音や旋律の歌い方をそのまま模倣してみるとイタリア語の息の運び方を感じられてとても勉強になると思います。一つ発音に関しての注意点は、scusamiをs"u"cusamiのように子音Sと子音Cの間に母音ウを入れて発音しないように気をつけてください。(♯α)

 

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1.別れに際して、まだ相手を愛している気持ちなどを歌っている曲です。いかにもイタリア人の感覚らしい恋愛・失恋を語っているように感じます。

 

  1. フォンタナは、穏やかに甘く語るような歌い方が印象的です。ですが、穏やかさや甘さの表現に寄りすぎて、声の揺れ(ちりめんヴィブラート状態)が出てしまっている部分は、好ましいことではありません。

ダララは、語るように歌っている部分は、ある意味では参考になるかもしれません。

Che amo te の発音の仕方や歌い方が、やや癖があるように感じます。ところどころ、文脈よりも音を優先して見得を切るような歌い方をしている印象を受けます。最後のロングトーンでeを3回ほど言い直すように歌っているのが印象的で、賛否両論あるかもしれませんが、声が浮いたり流れが止まったりということの抑制には効果があると思います。

 

3.歌詞の内容ひとつとっても、歌手の解釈や歌い方によって非常に差が出るものだと思います。穏やかに歌おうとする人もいれば、熱く歌おうとする人もいます。歌う人それぞれが、どのように内容を解釈しどのように語りたいかでアレンジは変わりますし、人の感情は千差万別ですから、十人十色の歌い方があっていいのではないかと思います。ただし、自分の楽器と合わない歌い方をすると演奏効果が充分に発揮できないことにつながってしまいますから、その点は気をつけましょう。もし、穏やかに歌いたいのであっても、息が漏れすぎてロングトーンができない(揺れてしまう、息が持たない)というようなことがある場合は注意が必要です。穏やかであっても、ある程度の楽器のなりは保ち、自在に表現できるようになるとよいでしょう。

歌詞を語る要素が土台にありつつ、そこを崩さずに歌えると効果的になるでしょう。あくまでも日本語風にならず、イタリア語のアクセントや文脈を活かしてそれを土台にしましょう。日本語風に、要するにカタカナが飛び交って見えるような歌い方になってしまうと、間が抜けた曲に聞こえてしまうと思います。歌い上げる部分は歌い上げてもいいと思いますが、歌詞の内容とリンクした表現で違和感なく歌えるとよいですね。(♭Я)

 

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  1. a a' b b' a a コーダで構成でされています。

 

  1. フォンタナは、細かいこぶしをとてもたくさん入れて歌っています。そのためは、声は軽めに喉でぎゅっと押さないように軽く歌っているのが特徴です。発音を軽やかにかつ明瞭にしています。しかし、口の中の筋肉も弛緩しているので音程が不明瞭なときがあります。

ロングトーンは、最後の音まで拍を感じ、意識を保ち続けて歌っています。

ダララは、伸びやかなロングトーンが美しく、表現としての泣きの声を随所に入れているのが特徴的です。フレーズの最後をポルタメントでずり下げて、涙を流し自分の非を許してもらいたい気持ちで歌っているかのようです。

サビのaメロとbメロの明暗のつけかたがはっきりしており、また、高音のハリが美しいです。

 

3.フォンタナは、言葉のはじめを、あえて話し声のトーンで発音してから歌にする表現を用いています。そうすることでより語り掛け、聞いているものに訴えかける効果を発揮しています。こぶしを入れるためには軽く歌うことをお勧めします。ロングトーンを歌うには拍感を失わないように気をつけましょう。

ダララは、思い切り息を吐くイメージで長いフレーズを歌いあげてみましょう。フレーズの始まりだけではなく、フレーズのゴールをめざして歌い始めるといいと思います。棒歌いにならないように、この歌手のフレーズの最後のメロディのおろし方を学んでみるといいでしょう。(♯β)

 

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1.アレンジの違いについてです。ダララのアレンジにあったような急なリズムの変更がなく、大きい拍の裏に一貫して3つ割が入ります。またストリングスの響きが素敵です。

フォンタナのアレンジは落ち着いて聞け、ダララの方は個性的だといえるでしょう。

ダララのは、遅いテンポの曲です。そのため、構成は単純で、サビ→Aメロ→サビとなります。サビに入るときのコーラスの粘り方がよいです。インテンポでないことに注目してください。面白いのはアレンジのリズムパターンです。サビの部分は2つ割、Aメロは3つ割が基本リズムとなります。なお、こういう遅いテンポの曲は、声、フレーズやリズム感など、あらゆる点でごまかしがきかず、思ったより難しいです。

 

2.フォンタナのほうが音域が低いこともあり、低い声がよく響きます。また、ダララより自由にリズムを伸ばし縮みさせるようです。転調後の「アモーレ・スクーザミ」の伸びが特に素晴らしいと思いました。

ダララの母音の伸びが素晴らしいです。また音域によって声質が変わらず、統一ができています。高い音が高く聞こえないのは、息が深いから。低い声が低く聞こえないのは、息が流れているから。また、ヴィブラートの使い方がうまいです。いつもかかっているわけではなく、かかるときは、感情とマッチしています。

この歌手の母音の伸びを身につけてほしいと思います。歌い出し近く2箇所で顕著なので、よく聞いてまねしてみてください。1つめは、歌い出してすぐ、scusa miの母音の伸び。2つめは、そのすぐ後の、io soffriroの跳躍です。またアレンジのリズムを叩いてみてください。2つ割が3つ割になるところ、こんがらずについていけますか。ヴォーカリストはリズム感がなければいけません。伴奏に置いて行かれるととてもかっこ悪いのでこれも練習してみてください。

 

3.テンポも遅いし音域も高くないので「簡単な曲」だと思うかもしれません。そういう方にはぜひこの曲を練習して、録音して、自分の声をよく聞いていただきたいのです。「普段話す高さ」で歌うことになりますが中音域は一番難しいのです。薄っぺらく聞こえるでしょう。高音でシャウトするとそれっぽく聞こえる人でも、苦戦するでしょう。後で聞きなおすと落ち込むと思います。いったん落ち込み、そこからまた成長していってください。(♭∴)

 

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1.タイトルは「愛しい人よ、許してください」といった意味。戯れの恋だったはずなのに、別れてから後悔に苛まれ許しを乞うという内容。とはいえ、音楽に深刻な要素はなく、甘くリラックスしたスローナンバーとなっています。

 

2.ダララは、シルキーな発声と情感たっぷりの語り口が特徴的です。突くような激しい表現もあるものの、柔軟な声なので耳当たりが損なわれません。

フォンタナは、肩の力の抜けた歌唱が身上。甘く囁くような歌い方で、ところどころ母音を短く処理することよってまるで話し言葉のように聞かせています。「許してください」といいながらも、まるで許されることが揺るぎない前提であるかのように自信たっぷりです。悪い男ですね。他の歌手ならばきっと声を張り上げて歌うであろう箇所を、フォンタナはそんな必要はないとばかりにあっさりと通り過ぎていきます。それでいてさりげない装飾を聞かせたり…やっぱり悪い男の歌です。

 

3.何度も同じ言葉、同じフレーズが出てきます。どれだけ違うふうに表現できるか是非研究してみてください。歌でうまく変化をつけられないと感じたら、先にせりふとしてさまざまなパターンで練習(小さく言う、大きく言う、目の前の人に言う、遠くの人に呼び掛ける、耳元で囁く、呻くように言う等)してみるといいでしょう。

また、許しを乞う内容とはいうものの、暗く歌うとこの曲らしさが出ないと思います。あくまでもカラッと風通しよく歌ってみましょう。(♯∂)