ヴォーカルの耳づくりと歌唱の学び方

ブレスヴォイストレーニング研究所のトレーナーや受講生によるライブラリー

おすすめアーティスト・作品 No.393

「とわの庭」小川糸(本)

目の見えない少女が主人公。母と2人で家に閉じこもり暮らしていたが、ある日突然母が出て行ってしまう。その後何年か1人で暮らし、やがて保護される。

保護された後は周りの助けにより自立して生きていく。

保護されるまでの前半部分は母とのいびつな関係や育児放棄など心がざわついたり、やり切れない気持ちになりましたが、後半は周囲の人や盲導犬との出会い、そして太陽の光、木々や、草花などの息づかいに支えられて力強く生きる姿に人間の力、自然の力のすごさを感じました。

ただ、盲目の少女がなぜ誰にも発見されずに1人で生きられたのかが不思議です。

 

「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生 日本製紙石巻工場」佐々涼子(本)

東日本大震災津波に呑み込まれた日本製紙石巻工場の再生の物語です。

いつも読んでいる本の紙がこんなにいろいろな人の手を介し、用途によって最適な紙になるよう心血注いで作られていることを知って驚きました。

また、震災後の避難や避難生活の様子など、報道で伝えられているものよりはるかに生々しく、美談だけでなく、人間の汚いところも描かれています。

壊滅的な状態からわずか半年後に工場を復活させた工場の従業員の方々の紙に対する熱い思いには感服しました。

電子書籍に押され、本は売れなくなっていると言われていますが、紙の本は無くならないでほしいと改めて思いました。

 

オデッサ」(舞台)

三谷幸喜脚本の舞台です。演じるのは3人だけで、複数の言語が飛び交うコメディです。3人の役者さんたちが、2時間近く出ずっぱりで喋り続ける熱量に圧倒されました。

 

「ダンスライフ  エピソード1」(Amazon prime Video)

ダンススクールのドキュメンタリー番組。私は大学時代に音楽にもっとのめり込んでいればよかった、と反省しています。彼らの躍動感や努力にエネルギーをもらって情熱を持ってトレーニングします。

 

イアン・ボストリッジテノール)コンサート」

イギリスの名歌手ボストリッジの来日公演。演目はシューベルト白鳥の歌」、ベートーヴェン「遙かなる恋人に寄す」。

歌手になる前はイギリス近代史や科学哲学史の分野で大きな功績を上げた学者で、殊に魔術についての論文で高い評価を得ています。歌手としても学者としても超一流。そしてテノールには珍しい長身痩躯。異色づくしの歌手です。

生で聞くのは初めてでした。極めて知的な詩と音楽の解釈。鮮烈で繊細な美声と、蜜も毒もある表現にアトラクトされました。 案外力強い声と、ほぼ無音まで持っていくピアニシモ。

驚いたことにボストリッジは舞台上で激しく動き回ります。 それも表現としての動きではなく、発声のための動き。 つま先立ちで歩いてみたり、片足に体重かけて伸び上がってみたり、ちょっとしゃがんだり。体幹が決まって声がコントロールしやすくなる方法と同じですが、ここまで本番で遠慮なくやる人ははじめて見ました。

そしてボストリッジは客席に一瞥もくれません。多分、彼はお客さんに向けて歌っているのではなく、彼の芸術のために歌っているのだなと感じました。 普通の歌手が本番ではやらない不思議な動きにも得心がいきました。よりよい声でよりよい演奏をするためには、どう見えるかなんてまったくもってどうでもいいのだと。 実際、彼の歌はほぼ完璧でした。 極めれば誰も文句言わない! 動き回ることについては万人にはお勧めしませんが、こういう歌手もいていいのだと大きくうなずいた体験でした。

ところで能楽というのは観客に対して演じているのではなく、神への捧げ物なのだそうです。ボストリッジはまるで能役者のよう。彼と彼の神との対話を、観客はただただ固唾を飲んで見守るのみ。それは神聖で幸福な時間でした。